スポーツを多角的に知る人が挑んだこと
淡いブルーのジャケットを羽織って現れたその人は、服の上からも屈強な筋肉の持ち主であることが一目で感じられた。
スポーツを人生の柱としてきたことが遠目からでもよくわかる。9歳からはじめた柔道、大学卒業後は「ベースボールマガジン社」に就職し、28歳でスポーツビジネスを学びにアメリカへ。1995年に世界柔道事務局次長に就き、アトランタ、シドニーオリンピックでは日本選手団の一員として全競技の広報も務めた。
選手としてはもちろん、様々な立場でスポーツに関わってきた永瀬義規さん。現在は「株式会社ジャパンスポーツコミッ
ション」の代表取締役であり、情熱を持って取り組んでいるのが「スポーツひのまるキッズ」だ。
「スポーツで何ができるか?」の答えを形に
「スポーツひのまるキッズ」は2008年に設立。スポーツで「子ども達の健康で健全な心身を育成する」「明るい家族関係をつくる」「明るい社会(地域)をつくる」ことを目的としている。その中で大切にしているのが「ひのまるキッズ六訓」だ。この六つの心を常に胸に留めることが、すべての活動の基本軸となる。それは子どもたちだけでなく、大人にとっても不可欠。育む場として実施しているのが、親子参加型の大会だ。
「柔道の大会って試合場と観客席が分かれていますよね。その距離を取り払い、親子が一緒に参加できる大会を目指しています」。2009年に関東・東海・九州で「スポーツひのまるキッズ柔道大会」を実施。2010年には全国8大会に規模を広げ、年間4000~5000人の子ども達が参加している。
家族で参加する、絆深める柔道大会
「親子の絆」をテーマとするこの大会では選手と親が一緒に入場し、選手宣誓も親子並んで。自分の子どもが出場する試合では親も指導者も畳にあがって一礼。その後、親が最前列で応援する。表彰式も一緒だ。大会へのエントリーも指導者ではなく、それぞれの保護者の手で行われる。「道場に預けきりではなく、我が子の成長や頑張る姿を至近距離で観ていただきたいのです。子どもにとってもそれが一番の喜びですから」。
子どもだけでなく、見守る親も大きく成長
大会を通して成長するのは子ども達だけではない。懸命に闘う子ども達、相手方の親や指導者とも接するなかで、親自身が礼儀や立ち振る舞い、そして何より子どもとの大切な“絆”のあるべき形を学んでいく。「最初はジャージで来ていたお父さんがスーツで参加するようになったり、家庭では見られない全身全霊で挑む子どもの姿に涙を浮かべ、試合後我が子をぎゅっと抱きしめる親御さんなど、毎回感動的なシーンがあちこちでみられます」と永瀬さん。
勝っても負けても、たくさん褒めてあげられる場
通常、大会では負けたら終了であるが、「スポーツひのまるキッズ柔道大会」ではオリンピックのメダリストなど有名選手を招き、「柔道クリニック」「受身コンテスト」「打ち込みコンテスト」といった様々なイベントを行い、1日中柔道を楽しめる場を提供している。試合に勝てなくても、基本を一生懸命やっている子をきちんと評価し、柔道をもっともっと好きになってもらえるきっかけを作っているのだ。
多くを学べる場であり、子どもをたくさん褒めてあげられる場。「勝負の厳しい世界も必要だけれど、人と人の絆がしっかりと深まることに重きを置きたい」と永瀬さんはいう。
永瀬さんの覚悟と信念が多くの共感を生む
「立ち上げは正直大変でしたが、覚悟を持ってゼロから始めたので自分の残りの人生すべてをかけて盛り上げていくつもりです。大会での子どもたちの笑顔をみていたら、この場を作れたことに幸せを感じます」。体だけでなく心をも真っ直ぐに鍛えるスポーツの可能性を信じ、東北の復興支援として被災地の親子を他県での大会へ招待するなど全国各地を永瀬さんは飛び回っている。
それには地域との連携や協賛企業からの協力が不可欠だ。毎回300社以上の協賛を永瀬さん自らが集めるが、そのほとんどが柔道とは関係のない企業や団体で、「スポーツひのまるキッズ」の活動や信念に惹かれ協力を申し出ている。「オロジオ」の木村社長もそんな永瀬さんの情熱に心打たれ、初年度より協賛を続けているそう。
スポーツにかける時を刻む“時計”が結んだ縁
「オロジオ」木村社長と永瀬さんの出会いは、2002年。永瀬さんがパネライの時計を見にきてくれたことがきっかけだ。「パネライのストーリー性が大好きで、全国各地の販売店を見てまわっていたんです。男性がおしゃれできるポイントって女性に比べると少ないので、時計にはこだわりたいんです」。以来、福岡へ来る際にはいつも立ち寄ってくれる。「大学生の時にはじめてレギュラーになって支給された柔道着の番号が6番で、時計のシリアルナンバーは6番をいつも探しています」。しっかりとした腕に時計を身につけ、一刻一刻をスポーツにかける人。その情熱が未来のスポーツ界をさらに輝かせるはずだ。