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知性と行動力を両輪に駆ける、鮨職人。-鮨 行天 店主 行天健二-

PEOPLE|2015.10.31 Photography:Satoru Hirayama
Text:Satomi Nishimura

「何かやってくれるぞ」と思わせる、人間力。

“贔屓の鮨屋”を持っている大人たちは、どんな基準で選んでいるのだろうか。

鮨は、魚へんに旨い、と書く。その文字が体現するように、ああ生きていて良かったと思える鮨であることは大前提。また、それなりのお代に見合う、しつらえ、雰囲気、もてなしにも期待をしてしまう。そして、鮨を握る職人の人となりだ。フィロソフィー、仕事ぶり、発する言葉が、我が波長とぴたりと合った時。鮨の旨さと流れる空気を、何倍にも格上げしてくれる。カウンターを挟んで差しむかったその存在は、鮨の時間の、監督兼主演といったところか。

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「ウチのお客様は、私に対して『この人は、何かやってくれそうだなあ!』と思ってくださっているようです」。快活に話してくれるのは、「鮨 行天」の行天健二さん。1982年生まれ(当時31歳)という若さで、ミシュランガイド福岡・佐賀2014特別版の“三つ星”を勝ち取った、その人だ。つやつやとした顔をほころばせる表情には、愛嬌もあり、充実感にあふれている。

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行天さんは日本史上最年少での“三つ星”獲得した。今も素晴らしいが、“これから”もかなり面白そうだ。
そんな期待感、気分の高まりをもって、「鮨 行天」に予約をいれる人は多い。「店は、お客様から投資していただく『ファンド』のようなつもりで営んでいます」。せっかく投資先に選んでもらった、貴重な機会。一円たりとも無駄にはできない。だから行天さんは、朝は仕入れ、昼は仕込み、夜は営業と、自分の時間のすべてを、「鮨 行天」にかける。

考え、行動する。職人でありプロデューサーである。

行天さんのご出身は、山口県下関。そこで祖父の代から魚や料理を扱う店を営んでいた。今も当時の写真を持ち歩くほど、大切な地だ。だから独立後、まず店を開いたのも下関である。

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しかし「故郷にこだわったわけではないのです。土地のこと、魚のこと、そのほかの食材のことなど、仕事をする上でリサーチをしやすかったから、下関市に開店しました」。店主となると、鮨の腕前も大事だが、店の運営もせねばならない。職人と経営者。その両方の才能を併せもつ行天さんが、下関の人々を惹きつけていくのに、そう時間はかからなかった。

開店から3年半。行天さんは、福岡への移転を決める。「自分の中で、下関では『やり切った』感もありました。下関にいたままでしたら、安定はしていたのでしょう。けれど、まだリスクを負ってもいい年齢だろうと思いきりました」。そんな前のめりな疾走感も、行天さんに皆が期待を抱くエレメントなのであろう。

移転の際のリサーチも欠かさない。「空港から30分圏内、天神から15分以内で到着できる場所など、当時はいろいろ考えていましたね」。そして落ち着いたのが薬院新川のほとりにある、現在の場所。
「でも、不思議ですね。結局どんな場所に店を構えても、福岡では同じだったかもしれません。福岡の方は、食への意識が高いでしょう。近いからこの鮨屋でいいや、という考え方はしないんです。こだわりのある方々にならば、郊外にだって食べにきていただけるでしょう」と分析する。

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さらに、劇場のような店のカウンター、握るシーンを美しく彩る調理器具、春夏秋冬にあわせて衣替えをする着物姿。続けて通ってくれる客には、ネーム入れのオーダーナフキンも用意する。もてなしのプロデューサーぶりにも磨きがかかり、福岡でもみるみるうちに、この“仰天劇場”へと引き込まれる客が増えていった。

ミシュラン三つ星のその先にあったもの。

2014年、“ミシュラン三つ星”という肩書きが加わり、さらに輝かしく、華やかなフィルターが重なった「鮨 行天」。一度は食すべき店として、雑誌やグルメブログで、次々と話題にのぼっていく様子が記憶に新しい。

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そんな中、「世界的な店と肩を並べることになる“三つ星”とは、一体何なのか?」と、行天さんの胸の内には、小さな疑問が生まれた。最初は点だったそれは、布に墨を落としたように広がっていく。以前とは違う、胸のざわつきが消えない。「このままでは、何か違う」。きっかけを掴んで、振り切りたい。そう考えた行天さんは、パリの“三つ星”フレンチレストラン「アストランス」へ向かっていた。この行動もまた、“動”の人、行天さんらしさであろうか。

「“三つ星”って何でしょうか?」。「アストランス」でコース料理をいただいた後、シェフのパスカル・バルボ氏に思いきって聞いてみる。すると、にっこり微笑みながら返ってきた言葉は「My Way」のひと言。より迷うことなく、自分の道を歩きなさい、という意味であった。また、“三つ星”とは、自分の道をまっすぐに歩くためのPassportでもあるんですよ、と続けてくれた。

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栄誉であるだけに、底知れぬ重圧感を持つ“三つ星”である。おそらくその冠をいただいた料理人は、迷いや不安も人一倍。恐ろしい話であるが、フランスにはこれが原因で命を落とす人もいるほどだという。だからこそ、後ろ向きの感情を乗り越えて、My Wayを行く。「私はこれでいい。自信を持っている」と心の底から思える…そんな努力があれば、My Wayも怖くはない。

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帰国後、行天さんは本来の溌剌さを取り戻していた。「社会貢献といったら大げさですが、自分の成長のためにも、少しずつ、取り組んでいます」というのは、子どもたちへの食育だ。夜には、食に一家言ある人々が集うカウンターへ子どもたちを招いて、鮨の握り方を教えたという。常に王道であり、革新的。大御所に愛される一方で、時には、子どもたちの笑い声が聞こえてくる鮨屋。それが、これから行天さんが切り拓いていく、「鮨 行天」のMy Wayなのかもしれない。

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information

鮨 行天
住所:福岡市中央区平尾1-2-12
電話:092-521-2200
営業時間:18:00〜23:00
店休日:不定休
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