
「男のおしゃれは足元から」。
ファッションに少しでも心を配る人ならば、誰もが聞いたことのあるフレーズだ。
「しかし、最近は男のおしゃれも進化が著しい。『靴』だけでなく『時計』も……というフィロソフィーが、新スタンダードになりつつありますね」。そう教えてくれたのは、雑誌や広告の世界で活躍するほか、名だたる著名人のスタイリングを手がけるスタイリスト兼ファッションディレクターの森岡 弘さんだ。
足元だけでなく、腕元も。
考えてみると、機械式時計をはじめとする高級時計が一部の趣味人のものであった時代は、完全に過ぎ去った。今は我々も含めたごく一般的な人々が、高級時計をつける喜びとその価値を自然と理解し、積極的に楽しもうとしている。
「ですから、靴と時計。今後は、この2点を男のおしゃれの起点にし、ファッションを組み立てていくといいですよね。コーディネートの主役となるような靴と時計を保有しておくと、大人の男のファッションはぐっと安定感が増すものです」。
時計を時刻を知る機械ではなく、ファッションの一部として捉えるならば「いつも同じなんてありえない」と森岡さん。「ビジネススーツにランニングシューズをあわせる人はいないでしょう? 同様に時計を捉えると、ビジネススーツの装いには文字盤の薄いドレスウォッチをつけていただきたいと思います。それが格好良いから、というより身だしなみやおしゃれの常識の一部というのでしょうか」。
年齢を重ねた大人の男にハズシはいらない。森岡さんは今、直球勝負のファッションが最もおしゃれだと感じている。
この日、イベントのゲストとして福岡を訪れた森岡さん。そのスーツスタイルは、エレガントな空気感をキープしつつ、ボトムスにごく深い藍色のデニムを合わせたもの。福岡への“旅”の時間を想起させるように、ほんの僅かなリラックス感が加味されている。
「私の今日のスタイリングに合せて選んだ時計は、ZENITH エル・プリメロ コレクションの『ムーン&サンフェイズ』ですね」。
ネイビーのコーディネートと相性の良いブラウン系の文字盤&革ベルト。そしてZENITHのマニュファクチュールならではの品格とクロノグラフのカジュアルさがミックスされているモデルだ。
旅先での仕事に取り組んだ後は、仲間との美味しい食事が待っている。そんな大人の男性の“仕事80%、プライベート20%の日”によく似合う時計だ。
森岡さんの日常には、いつもファッションの香りがする。それはまだ少年だった頃から変わらない。
中学校へ入学したお祝いに、父上から贈られたのはなんと、RADOの腕時計だった。デザインはスクエアの文字盤、色はゴールド系。ベルトはワニ革。中学生になった息子へ教えたかったのは、ファッションの極意か、それとも“いいもの”と過ごす価値ある日々か。父上もかなりの伊達男であられたのだろう。
「私自身は、大人の仲間入りができたようでうれしかったですね。同級生からは『変わった時計をしてるね』と訝しがられていましたけれど(笑)」。
自分で初めて購入したのは、サーフィンブームに乗ったSEIKOのダイバーズウォッチ。就職後、初ボーナスで手に入れたROLEXは「海外ロケでなくしてしまいました」という。
時計とも様々な思い出を重ねている森岡さんだが、どんな時でも「時計はその存在ひとつで、私のセンスを伝えてくれるアイテム」であるそう。これからもずっと時計は森岡さんのおしゃれの起点で有り続ける。