戸賀さんとお会いした時、颯爽という言葉が浮かんだ。
その場に現れた瞬間、周りの人々を楽しい渦に巻き込んでしまうような。エネルギッシュでありながら、軽やかでスマートな心配りがあふれる。大人の男性向けファッション誌の中で「定期購読者」の数がダントツ1位と言われる「MEN’S CLUB」の編集長。読者のみなさんもきっと、戸賀さんのこの牽引力を愛してやまないのだろう。
その日、戸賀さんがつけていたのは、ZENITH(ゼニス)の「パイロット アエロネフ タイプ20」。2012年、ジュネーブで行われた新作発表会でひと目ボレし、定価も確かめずに購入した。それほど衝撃的な出会いだったという。そして、戸賀さんの手元にやってきたのは、2014年。待ち焦がれた1年半後の再会だった。

ゆるぎない“本物”ならば、遊び心も上品にきまる
「『モノが自分の前を歩かない』ように心がけています」という戸賀さん。「例えば僕が今、Patek Philippeクラスの超高級時計をしても不相応でしょう。戸賀という名前ではなく『ああ、あのパテックをつけていた人ね』と覚えられてしまうかな(笑)」。時計はその人の“人となり”を表す、キーアイテム。以前、所有している車でその人の趣味がおおよそ想像できたように、今、時計がその人らしさを腕元から表現する。
時計を主役にしたくて、選んだファッションは大人のカジュアル。「オロジオさんでのイベントに出席するから、スーツの方がいいかなとも思いました。でも、今日は『タイプ20』を中心に据えたかった。時計からコーディネートを考えるというのもいいものですよ」。57.5mm径とかなり大型のケースが、主張はしつつもその装いへ上品に溶け込んでいる。
戸賀さんは「大きめのフェイスだから、一見、遊びの時計に見えますか?でもZENITHはメーカーとしての歴史を150年もつむいできたブランド。横たわる背景にゆるぎない厚みがあるから、軽い印象にならないんです」という。ZENITHは、時計に収められているムーブメントをすべて自社で製造できるマニュファクチュール。1969年に誕生した傑作ムーブメント「エル・プリメロ」は、その代名詞とも言える存在で、その昔はROLEX「デイトナ」にも搭載されていたほどだ。

これからは、マニュファクチュールの時代
「いい時計をしたい」という、思いをかなえる人が増えてきた今。マニュファクチュール(自社でムーブメントを製造するメーカー)であることが、新たなる時計選びの基準になっていくのではないか。戸賀さんはそう予想している。「本物であること」「確固たる自信があること」「自身に責任が持てること」。マニュファクチュールのプライドは、その時計をつけている人の“人となり”に重なっていく。
また、「ZENITHのような世界でも限られたマニュファクチュールの時計をつけていたなら、『この方は分かっていらっしゃる方だな』と信頼をおいてしまいます」と戸賀さん。オロジオで開催されたイベント「ZENITH×MEN’S CLUB NIGHT」でも、ファッションは“楽しむ”という要素のほかに、自分の社会的な印象をつくるという重要な役割があると語っていた。
「おかしな格好をしていると、我が社の株価に影響する」と、企業のトップが自身にスタイリストをつけるのも珍しいことではない。ワールドクラスのサッカー選手もファッションを通して自分のイメージ作りに余念がない。その中でもやはり時計は、“人となり”がストレートに表現される、重要なアイテム。時計選びもビジネススキルのひとつであると考えてもいい。

時計好きだった父。その血を受け継ぐ
戸賀さんと時計との出会いは14歳の頃。父上が若くして他界された後、無理を言って買ってもらったTAG Heuerだった。「洒落者で時計や車が大好きだった父。その血を確実に受け継いでいますね」。成人式でROLEXのデイトジャストを購入、初任給では同じくROLEXの「エアキング」を手に入れるなど、戸賀さんの人生の節目にはいつも時計があった。
今、手元にある時計は、約50本。その時、その時、今の自分の“人となり”を表す時計を選んできたつもりだ。「時計は、今日の自分を表現するものだから」という戸賀さん。その履歴は年々更新されていく。2015年がスタートを切った今、次なる時計と次なる自身の構想は、いかなるものなのだろうか。